準備はできたか？

航空券とレンタカーの準備を始めてみると，フランスにしては結構うまく行くではないか．割引運賃の航空券も確保できて，あとは荷物をまとめるだけとなった．

先ず何はともあれ，航空券である．パリ―アンカレッジの往復切符を手に入れなければならない．日本とヨーロッパを結ぶ航空機はそのほとんどがアンカレッジで給油と乗務員の交代を行うために，乗客はいったんアンカレッジで降りることになる．しかしこれはいわゆるトランシットであって，アメリカへの入国をするわけではない．免税店で小一時間ばかり暇つぶしをするだけである．日本人のお土産好きと高級品指向につけ込んでか，世界中で日本人が多く利用する空港ターミナルには，日本人目当ての大規模な免税店が多い．アンカレッジの新しい国際線ターミナルにもかなり大規模なものがあるから，ヨーロッパへ行く途中で買物をしたことのある人も多いだろう．年間何十万人かが立ち寄っているはずであるから大繁盛している．とにかく，アンカレッジというところは，ほとんどの日本人にとっては単なる中継地でしか無い．ここで降りて観光をしようという人は皆無に近い．そのために，航空券の市場も極めて限られたものでしかなく，入手には何かと困難がつきまとう．先ず，いわゆる安売り航空券と言うものが存在しない．ヨーロッパ往復18万円などという航空券が売られている割には，その途中までの航空券はもっと高い正規のルートでしか売られていないという矛盾した状況があるのである．日本一ヨーロッパの正規のエコノミークラスの運賃が80万円もすることを考えれば，正規の運賃がいかに高いかが解るだろう．アンカレッジは日本からだとハワイよりも近い．ヨーロッパまでの約半分の距離である．それなのにヨーロッパへ行くよりも高い航空券を買わされるハメになる．
		実際に購入し使用した航空券．この当時，ロシア上空の航路はまだ限られており，大半のヨーロッパ便はAnchorageを経由していた．
だが一つだけ手がある．APEX運賃である．これは購入時に往復とも日時便名まで決めてしまい，以後の変更には多額のペナルティがかかるのと，ある日数以上，ある日数以内の日程で往復する事が条件である．フランスではバカンス割引等という名前で売られているらしい．これだと正規航空券の40%引きくらいで購入できる．但し，APEXの枠を持ったフライトはそう多くはないし，航空会社も勿論IATA加盟の大きなキャリアーに限られる．5年前もこれでアラスカに行った．フランスからでもこれで行けるはずである．そう思って旅行代理店に電話をしてみたら，あった，あった．ちゃんとエア・フランスがAPEXで，アンカレッジ降機OKのチケットを出しているのである．但し，チケットの枠が小さいためになかなか希望通りのフライトが取れないのが困った．相当前から予約しておかないと無理のようである．会社勤めのつらい身ゆえ，何とか週末出発週末帰着にしたかったのであるが，今回は無理だった．それでもとにかく，無事にチケットは購入し，アラスカまでの往復の足は確保したのである．めでたし，めでたし．早くも心は浮き浮きしだし，仕事が手につかなくなる．
おっと，もう一つやっておかなくてはならない事がある．レンタカーの予約である．アラスカは飛び地とは言え，アメリカ合州国の一つの州である．ということは，車は歯ブラシやトイレットペーパーと同様生活必需品だということを意味する．スーパーマーケットへ買物へ行くのも，マクドナルドにハンバーガーを食べに行くのも車がないとまず不可能な国なのである．町自体が車の利用を前提にして作られているから，車を持っていない人間にははなはだ不便な土地なのだ．おまけに今回は，キャンピング用品いっさいがっさいと，食料品を満載すると言う重要な役目もある．車なしで行った5年前は，やはり何かと不便で，行動範囲も狭くなりがちだった．この経験は今回の旅行に生かさなければならない．早速HERTZに電話する．HERTZやAVISのような大手のレンタカー会社の良いところは，信頼性が高いこと，トラブルの処理がスムーズなこと，そして，世界中どこからでも，世界中どの都市におけるレンタルの予約でも出来ることだろう．今回も，実にきれいな英語を話す女性が親切に対応してくれ，電話一本でスムーズに事が片付いてしまった．フランスでは何事につけなかなかこう言う風には行かないのだが，これはひとえにHERTZなればこそだったのか，それともたまたま運良くいい相手が電話を取ってくれたのか，定かではない．
		パリでは路上の市Marcheが健在だった．それは中心部でも同様で，日本にたとえると，丸の内や銀座に大露天市が立つに等しい．大半の食料品はMarcheで買うことができる．そればかりか，衣類，家具の修理屋など，生活に必要なものはたいていのものが揃っていた．残念ながら，近代的なショッピングセンターに押されて衰退気味．しかしそこには生身の売り手と買い手が触れ合うおもしろさがある．
さて，出発前の準備はほぼ片付いたようである．あとは遅れないように空港に行きさえすれば良い．もう気分はルンルンである．バックパックを引っ張り出してきてパッキングを始めたり，ガソリンストーブの点検をしたり，カメラの掃除をしたり，フィルムを買いに行ったり，もう心はアラスカである．女房の方は，冷蔵庫の中身を空っぽにしつつ，なおかつ毎日の食卓の材料は確保すると言う面倒な仕事をこなしつつあった．3週間も家を空けるのであるから，電気，水道は元を切って行かなければならない．最後の夜は外食するとして，色々と計画を立てては毎日の献立が決まった．いよいよ冷蔵庫が空っぽになって，さあ明日は出発である．最終荷造りも無事完了．明朝は雨が降りませんようにと祈った．

前回　1985年6月「アラスカに行くぞ！」
次回　1985年7月25日 (快晴) 「アンカレッジだぞーい！」

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